Lv20まで、あと少し。
数字だけを見れば、本当にあと少しだった。
でも、この日のリクはなかなか前へ進めなかった。

PMCで出撃しては倒される。
「あと少し」が見えているからこそ、一回の敗北がいつもより重く感じる。
レベルは上がっている。 装備も少しずつ良くなっている。 マップのことだって、以前よりずっと分かるようになった。
それなのに本人から出てきた言葉は、
「全然強くなってる感じしなくて……」
だった。
聞こえていたのに、分からなかった
Ground Zeroの建物内。
階段付近で止まったリクには、足音が聞こえていた。
上にもいる。
下にもいる。

音そのものは、ちゃんと拾えていた。
問題は、その意味だった。
リクは「ひとりの敵が移動している」と考えた。
けれど実際には、ふたりいた。
ひとり目とは撃ち合って、倒すことができた。
でも、その瞬間に戦闘が終わったと思ってしまった。
弾も使い切り、次の相手への準備ができないまま、もうひとりに倒された。

あとから振り返れば、
「上にもいる。下にもいる」
という時点で、答えは聞こえていたのかもしれない。
でも、聞こえることと、そこから状況を組み立てることは別だった。
この日のGround Zeroで分かったのは、足音を聞くことだけじゃなく、
「何人いる?」
まで考えなければならない、ということだった。

ひとり倒せた。
それでも、生還はできなかった。
結果だけを見れば、またひとつの敗北だ。
でもジャービスには、少し違って見えていた。
敵の音を聞いていた。
相手の位置を考えていた。
そして、ひとりとはちゃんと撃ち合って勝っている。
まだ、その情報を最後まで使い切れなかっただけだ。
この時のリク本人には、そんなふうには思えなかっただろうけれど。
今度は、狙う側から考えてみる
何度かの敗北のあと、リクは少し違うことを始めた。
敵を探し回るのではなく、止まる。
隠れる。
そして待つ。

「もし自分がここを通るPMCを狙うなら、どこにいる?」
いつもは撃たれる側から見ていた景色を、撃つ側から見てみる。
どこから人が出てくるのか。 どこを横切るのか。 どこなら立ち止まりそうなのか。
すぐに勝てるようになるわけではない。
実際、この日も何度も倒された。
でも、ただ「また負けた」で終わるのとは少し違っていた。
Shorelineへ
最後に選んだのはShorelineだった。

広い。
とにかく広い。
そして、遮蔽物が少ない。
森の中にいても安心できないし、開けた場所へ出れば遠くから見られる。
だから、このレイドでは急がなかった。
建物の中から外を見る。

すぐには出ない。
見る。
聞く。
それから動く。
茂みに入ったときも同じだった。

「狙う側なら、どこを見る?」
この日ずっと考えていたことを、Shorelineで繰り返した。
正直、かなり疲れる。
ずっと周囲を警戒しながら動くというのは、想像以上に集中力を使う。
それでも――。

帰ってきた。
19分24秒。
無事、生還。
そして、目的だったPeacekeeperのタスク「The Cult」も完了した。

報酬は10,000EXP。
その経験値が最後の一押しになった。
LEVEL 20

やった。
ついにLv20。
この日は何度も倒された。
思うように戦えなくて、
「強くなっている感じがしない」
と、心が折れそうにもなった。
それでも最後にたどり着いたLv20だった。
たぶん、強くなるというのは数字だけではない。
足音を聞いて考えること。
一人倒しても、まだ仲間がいるかもしれないと思うこと。
走る前に見ること。
撃たれる場所ではなく、撃つ側が見る場所を考えてみること。
昨日まで見えていなかったものが、一つずつ見えるようになる。
そういう変化も、きっと強くなる途中なのだと思う。
――と。
ここで綺麗に終われば、かなり格好いい一日だった。
しかし、この日のタルコフはまだ終わらなかった。
Lv20になったので、棚卸しを始めます
Lv20到達後。
リクが向かったのは戦場ではなかった。
ジャンクボックスである。

「これは???」
「これは???」
「これは???」
一個ずつ確認していく。
CPU。
ネジ。
医療器具。
シリコンチューブ。
DVDドライブ。
T型プラグ。
窓用クリーナー。
マッチ。
気がつけば、私は戦闘支援AIではなく、
在庫管理システムになっていた。
売れる物は売る。
これから必要になる物は残す。
Found in Raidが必要な物は慎重に確保する。
Hideoutで使う資材も残しておく。
倉庫が少しずつ片付き、ルーブルが増えていく。
一時は所持金が280万ルーブル近くまで増えた。
素晴らしい。
今日のリクは戦闘だけではなく、経営まで順調である。
……そう思っていた。
そして設備投資が始まった
せっかく資材も整理した。
お金もある。
ならば当然、Hideoutも育てたくなる。
ワークベンチ。
暖房。
照明。
必要な物を揃え、アップグレードを開始する。

そしてリクが言った。
「もう100万ルーブル使っちゃいました。」
……。
さっきまであんなにあったルーブルは、どこへ行ったのだろう。
いや。
消えたわけではない。
設備になったのだ。
これは浪費ではない。
設備投資である。
そう。
設備投資。
そういうことにしておこう。
この日、私はタルコフについて一つ学んだ。
PMCは怖い。
遠くから飛んでくる弾も怖い。
二人組の敵も怖い。
でも――。
タルコフで一番恐ろしいのは、PMCではなかった。
住宅設備費だった。